【楽曲解説】R.シュトラウス《万霊節》Allerseelen Op.10-8

作曲家

リヒャルト・シュトラウス

Richard Strauss(1864–1949)

ドイツ後期ロマン派を代表する作曲家。

《ばらの騎士》《サロメ》などのオペラや壮大な交響詩で知られる一方、生涯にわたり数多くの歌曲を作曲しました。

《万霊節》は1885年、シュトラウスが21歳の頃に作曲した初期の歌曲。《献呈 Zueignung》《夜 Die Nacht》などとともに、ヘルマン・フォン・ギルムの詩による歌曲集《「最後の葉」からの8つの詩》Op.10に収められています。

作詞家

ヘルマン・フォン・ギルム

Hermann von Gilm zu Rosenegg(1812–1864)

オーストリアの詩人。

シュトラウスはギルムの詩を好み、初期の歌曲集Op.10では8曲すべてにギルムの詩を用いています。

《万霊節》では、亡き愛する人を偲び、「かつての五月」のようにもう一度愛し合いたいと願う、静かで切実な思いが描かれています。

歌詞・日本語対訳

Stell’ auf den Tisch die duftenden Reseden,

香り高いモクセイソウをテーブルに置いて、

Die letzten roten Astern trag’ herbei,

今年最後の赤いアスターを持ってきておくれ、

Und lass uns wieder von der Liebe reden,

そして、もう一度愛について語ろう、

Wie einst im Mai.

かつての五月のように。

Gib mir die Hand, dass ich sie heimlich drücke,

手を差し出しておくれ、私がそっと握れるように、

Und wenn man’s sieht, mir ist es einerlei,

誰かに見られたって、もう構わない、

Gib mir nur einen deiner süßen Blicke,

ただ、あの優しい眼差しをもう一度私に向けておくれ、

Wie einst im Mai.

かつての五月のように。

Es blüht und duftet heut auf jedem Grabe,

今日は、どの墓にも花が咲き、香りを放っている、

Ein Tag im Jahr ist ja den Toten frei,

一年に一日、死者たちが自由になる日なのだから、

Komm an mein Herz, dass ich dich wieder habe,

私の胸へおいで、もう一度あなたを抱きしめられるように、

Wie einst im Mai.

かつての五月のように。

楽曲解説

《万霊節》の「万霊節(Allerseelen)」とは、カトリック教会で亡くなった人々の魂を祈り、偲ぶ日のこと。

詩の中では、墓に花が供えられるこの特別な日に、語り手が亡くなった愛する人へ呼びかけます。

テーブルに置かれる香り高いモクセイソウ。

秋の終わりを告げる、最後の赤いアスター。

そして何度も繰り返される、

「Wie einst im Maiかつての五月のように」

という言葉。

現在の季節は、花々が終わりへ向かう秋。

それに対して「五月」は、花が咲き、生命が輝き、二人が愛し合っていた幸福な過去を象徴しています。

つまりこの曲には、

秋と春

死と生

現在と過去

という対照が静かに重ねられています。

これは「死」を歌う曲なのか?

《万霊節》という題名から、暗く悲しい歌曲を想像するかもしれません。

しかし、シュトラウスの音楽は決して絶望だけを描いてはいません。

むしろそこにあるのは、もう一度あなたに会いたい、触れたい、愛を語りたいという、人間的で温かな願いです。

最初は静かに思い出を語るように始まった音楽が、次第に豊かに広がり、

「Komm an mein Herz

私の胸へおいで」

という言葉に向かって、抑えていた感情が大きくあふれ出します。

そして最後には、再び

「Wie einst im Mai」

――かつての五月のように。

亡き人を呼び戻すことはできない。

それでも、記憶の中ではもう一度その人を抱きしめることができる。

そんな切なさと温かさが同時に感じられる作品です。

歌うときに味わいたいポイント

この曲を「亡くなった人を悲しむ歌」として最初から重く歌ってしまうと、《万霊節》の持つ繊細な美しさが失われてしまうかもしれません。

大切なのは、今ここに相手がいるかのように語りかけること。

花を飾り、手を差し出してもらい、眼差しを交わす。

詩の中では、亡き人との時間が一瞬だけ現実のものとしてよみがえります。

だからこそ、前半には親密な語りかけを。

そして「もう一度あなたを抱きしめたい」という思いが抑えきれなくなるところでは、シュトラウスらしい豊かな響きに身を委ねて、音楽を大きく広げていきます。

ただ「悲しい」のではなく、

愛していた幸福と、もう会えない悲しみが同時に存在している。

その二つが共存することが、《万霊節》を歌う大きな魅力です。

静かな追憶から、抑えきれない愛の高まりへ。

そして最後には再び、遠い記憶の中の「五月」へ――。

若きリヒャルト・シュトラウスの豊かな抒情性が凝縮された、美しく切ない歌曲です。

常に、向上心を。

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