【楽曲解説】平井康三郎作曲「九十九里浜」

作曲家
平井康三郎(1910–2002)
高知県出身の作曲家。日本の伝統的な音楽感覚と西洋音楽の技法を生かし、多くの歌曲、合唱曲、童謡などを残しました。
《九十九里浜》は1935(昭和10)年に作曲された歌曲で、《平城山》《甲斐の峡》とともに、北見志保子の短歌による三部作を構成しています。
作詞家
北見志保子(1885–1955)
高知県出身の歌人。本名・川島朝野。短歌を中心に、随筆や小説、歌曲の作詞など幅広い活動を行いました。
人を恋う心や孤独、哀感を繊細に詠んだ作品を数多く残し、その言葉は平井康三郎による《平城山》《甲斐の峡》《九十九里浜》などの歌曲にも結実しています。
歌詞の内容
舞台となるのは、広大な太平洋に面した九十九里浜。
はるか沖では荒々しく波が立ち、水平線には日の出の気配が近づき、その空を海鳥が飛んでいます。
雄大な海を前にして、歌い手の心にもさまざまな思いが押し寄せます。
遠く重なり合う波のように、自分の思いも幾重にも隔てられ、簡単には届かない――。
そして最後には、目の前に広がる太平洋と、白く長く続く九十九里浜の姿が、壮大なスケールで描き出されます。
荒れる海と、人間の内側にある激しい感情とが重なり合っていく詩として味わうことのできる作品です。
楽曲解説
《九十九里浜》は、短い作品でありながら、非常にドラマティックな日本歌曲です。
冒頭からピアノが描き出すのは、激しく打ち寄せる波。そこに力強い歌声が加わり、九十九里の荒々しい海の姿が目の前に立ち上がります。
やがて音楽は表情を変え、遠い沖を見つめながら、自らの内面へと沈み込むような抒情的な世界へ。
そして終盤では再び視界が大きく開け、果てしない太平洋と白い砂浜を思わせる、壮大で華やかなクライマックスへと向かいます。
荒れる波、はるかな水平線、幾重にも隔てられた距離――それらは、歌い手の心の中にある容易には届かない思いや、抑えきれない感情とも重なって聞こえます。
雄大な自然の風景と、人間の内面にある情熱。
その二つが短い時間の中で鮮やかに交差する、平井康三郎らしいスケールの大きな日本歌曲です。
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