【楽曲解説】トスティ作曲「薔薇」Rosa

作曲家

フランチェスコ・パオロ・トスティ

Francesco Paolo Tosti(1846–1916)

イタリアの作曲家・声楽教師。とりわけ歌曲の分野で知られ、声の美しさを自然に引き出す流麗な旋律と、詩の感情に寄り添う繊細な表現によって、現在も多くの歌手に愛されています。

作詞家

ロッコ・エマヌエーレ・パリアーラ

Rocco Emanuele Pagliara(1856–1914)

イタリアの詩人・作家。トスティとは深い関わりを持ち、《Malia(魅惑)》をはじめ、トスティ歌曲の詩を数多く手がけました。

歌詞・日本語対訳

Una povera rosa è rinserrata

一輪の哀れな薔薇が、そっとしまわれている

Nel tuo piccolo libro di preghiera:

あなたの小さな祈祷書の中に。

Una povera rosa di brughiera

荒野に咲いていた、一輪の哀れな薔薇、

Che la lunga stagione ha disseccata.

長い時の流れが、すっかり枯らしてしまった。

Chi te l’ha dato quel mesto fiore?

その悲しげな花を、誰があなたにくれたのだろう?

Qual ti rammenta sogno gentil?

それは、どんな優しい夢をあなたに思い出させるのだろう?

“Ahi,” tu rispondi, “Fugge l’amore!

「ああ」と、あなたは答える。「愛は去ってゆく!

Fuggon le splendide sere d’april!”

美しい四月の夕べも、過ぎ去ってゆくの!」

Or muta la contempli, e, d’improvviso,

今、あなたは黙ってその薔薇を見つめる。すると突然、

Ti si vela di pianto la pupilla:

あなたの瞳は涙に曇る。

Or, la baci, tremando, e disfavilla

そして震えながら、その薔薇に口づけると、

Su la tua fronte, un vivido sorriso!

あなたの顔には、鮮やかな微笑みが輝き出す。

楽曲解説

《薔薇》で描かれるのは、祈祷書の中に大切にしまわれた、一輪の枯れた薔薇です。

かつて誰かから贈られたのであろうその花は、長い年月を経てすっかり色褪せています。しかし、その薔薇を見つめれば、過ぎ去った恋の記憶は今も鮮やかによみがえります。

「愛は去ってゆく。美しい四月の夕べも過ぎ去ってゆく――」

この言葉に象徴されるように、作品の中心にあるのは、時の流れとともに失われてゆく愛への哀惜です。

しかし、物語は悲しみだけでは終わりません。薔薇を見つめた女性の瞳には涙が浮かびますが、やがて彼女はその花にそっと口づけ、最後にはその顔に鮮やかな微笑みが現れます。

枯れてしまった薔薇は、失われた恋の象徴であると同時に、かつて確かに存在した幸福な時間の証でもあるのでしょう。

トスティは、この繊細な心の動きを、歌声に自然に寄り添う流麗な旋律によって描き出しています。悲しみ、懐かしさ、愛おしさ、そして微笑み――一輪の薔薇を通して、過ぎ去った愛を静かに振り返る、トスティらしい優美で抒情的な歌曲です。

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